2017年10月13日金曜日

PUGMENTにおける新奇性と日常性の結びあわせ

講義詳細は一つ前の記事にまとめております。ご確認ください。
※イベント当日の台風接近が予想されております。10/28現在、開催予定ですが、中止となった場合は以下のSNSにてお知らせいたします。

@sen_i_lab








先日、ツイッターにて告知がございました通り、来る1029日、夜19時より、PUGMENTの二人とキュレーターの飯岡陸さん、おまけにわたし繊維研究会代表の大和佳克がファッションを話します!


このたびは、PUGMENTを初めて知った頃に、その作品をホームページで見ていた時にわたしに浮かんできた
幾つかの感想を拾い上げてそれを投稿し、これをPUGMENTの紹介とさせていただこうと思います。


さっそくですが《刺繍された円/embroidered circles(2015)と題されたその作品は、古着通販サイトでの、とある経験から始まっているようでした。通販サイトの商品画像上、衣服のダメージ部分には丸が付けられています。その丸は、ダメージの存在を買い手に明らかにするために付けられたもので、画像上でダメージをフレーミングします。

こうした経験に発し、次にPUGMENTが行った操作は、画像上の丸を実際に服に刺繍する、というシンプルなものでした。また、服は、かつて通販で売られていた値段に、円の数を掛けて算出した値段で再び売られます。その服の値段は必然的に、かつてサイトで売られていた値段より高くなります。

こうした手続きのひと揃いが《刺繍された円》という作品です。


概観を終えたところで一旦横道に逸れることにします。
この《刺繍された円》をはじめ、《MAGNETIC DRESS(2014)や《IMAGE(2016-)などの作品を見たとき、わたしは、服のこんなところにも想像力を飛ばせるところがあったのか、とソボクに感じ入ったことを思い出します。

それまでは、服といえばコレクションに出ているものなど、スポットライトを浴びてプレゼンテーションされた服のことばかりをもっぱら考えていましたので、そう言われてみれば、というかたちで、道端に落ちている服や古着を思い出しました。より「手前」の服や服が置かれる状況が見えていなかった。

言うまでもなく、服とそれをとりまくストーリー及びコンセプトはデザイナー二人の作る作品ですが、それを通して考えることが出来てくる領域は、より「手前」にある服、服を囲う状況、服を介した経験でした。ある局部にスポットをあて、その後の操作を経て提示されるPUGMENTの作品は、まず僕にとっては、その着眼とアプローチにおいて新奇性をもちながらも、しかし(しかしではないのだが)、日常に関わっていくものでした。即ちアクチュアリティがある。

IMAGE》は、まずはじめ衝撃でした。作家による作品の筋書きというものは、「実際に」そうした経験があったかどうかは分かりようもないし、どっちでもよく(どっちでもよくない作り手もいるが)、とりあえずPUGMENTの場合、わたしはそれをあえてフィクショナルなストーリーとして読むわけですが、《IMAGE》はその点にしても面白いです。

「私」は古着屋で買った軍放出のミリタリーウェアに褐色の染みを認め、以来その服が着れなくなってしまう。

そうか、服って血液がつくほど身体に近接しているんだ、ということに加え、軍服ってそうだ、血が飛び散る場所で着られる(または着られた)戦闘服1だったんだ、と、「そう言われてみて」慄きました。
褐色の染みを認めてからの操作、アプローチは、またしてもあるわけですが、それは本稿では書きません。是非、ホームページで見てみてください。

余談ですが、《IMAGE》を受けて、高校生の時だったかな、背中のおできが潰れて制服の白いシャツに赤い染みをつけたことを思い出しました。服に血がついてしまった時のおぞましさは、その服が自身の「私性」に重く染まっていく「ような」感覚からきているのかもしれません。つかず離れずであるはずの服に、肉体の中、皮膚の内側を流れる血液が移っていく事態は、どうもインパクトがありました。見せないようにしないと、と感じたこともよく覚えています。ブレザージャケットを着てその場は凌いだと思うのですが、後の顛末は忘れました。



さて、《刺繍された円》に戻りましょう。この作品では、通常古着の価値の傷である文字通りのダメージを表示する「丸」の読み替えが行われているように思われます。丸は実際の服に縫い付けられて円になります。そして円の数だけ、服の値段は高くなります。安くなるのではない。

古着とはある服がある個人によって一定期間所有、着用されたものが、再び売り物となって流通しているものであり、ダメージとはその所有期間における食べこぼしなり、ほつれなり、磨耗などの布の経年劣化を指します。

ここで考えられるのは、服はその期間に「一点ものになっていく」のではないかということです。つまり、同じ型、同じ布で作られた服は、ある個人によって着られながら、特異な、スペシフィックなものに変化していく、そう捉えることができるかもしれないのです。

《刺繍された円/embroidered circles》は、持ち主にとってもしかしたら不本意にできてしまったしみが、再流通に際しても依然忘れられずに残り、価値低下の要因として目立たされてしまう、という点をユーモラスに扱いつつ、服というものが、ある時間のなかで経てきた変化の痕跡を布地上の染みとして維持していることによって個別化され、特殊なものになるという点、これを価値づけてみるという作品なのかもしれません。

シンプルな操作と、価格設定後の服の再販は、丸印のつけられたダメージをどこか愛をもって掬い上げているようにもわたしには思えました。愛というと情感が乗りすぎるのですが、ともかくここには価値の転換があるということです。


身銭をはたいて買った大好きな服。初めての洗濯、乾くのを待って、朝、アイロンをかけて着て出掛け、街なかのウインドーに反射する自分を横目に、気分上々、意気揚々と入ったレストランでこっくりとしたソースがこぼれてシャツに付いたらわたしは、相変わらず絶望し、野獣めいた叫び声をあげると思いますが、すこし経って、でもこの絶望って?と考えられる気がします。このダメージ(精神的なものを含む)とは何なのか。



ただし、価値の読み替えという点のみであれば、価格設定システムだけで足りるのではないか。なぜ実際に縫い付けるのか。このマテリアライズの操作こそが重要な気がしています。(とはいえ、わたしはこの作品をネット上の画像で見る)

丸とは、その服が通販サイト上に存在する期間だけ、つまり売れずにいる期間にのみ、画像上に付けられるものです。当たり前ですが、売れて購入者に届く服にダメージはありますが、丸のフレーミングはありません。
PUGMENTの刺繍を経て売られ手元に届く服は、円によるフレーミングに囲い込まれたダメージを持つものです。この違いは?
糸による記名、マルタンマルジェラ、コズミックワンダー、ケイスケカンダ。
ダメージ、例えばスペシフィックなシミが、購入者によって消し取られたら、円はどんな機能になってしまうのか、等。他作品との関連からしても、画像とマテリアルのこの行き来こそ、やはり重要だと思われるのですが、、、



さて、本稿は、大和の私的なパグメント体験を書くことでその紹介に代えようという趣旨ですが、偶然、主だって取り上げた作品が「古着」という要素で共通していました。意図はなく、たまたまでしかありませんが、一方、PUGMENTは所謂コレクションブラントへの言及も見られます。最新作の《Spring2018》はそうしたビックメゾンとの距離のなかで制作されたであろう作品です。講義でも特に取り合げられるのではないかと思います。

ステイトメントに現れるブランド、VETEMENTSRAFSIMONSGUCCHIY/Project(徐々にテンションが上がらざるを得ない)BALENCIAGA!





いま、服を見ること、着ること、考えること、作ることにどんな実効性があるのか、または無いのか。 



 
特別講義では、最新の《Spring2018》にはじまり、これまでにPUGMENTが出遭ってきた動向やアーティスト、ブランドに言及していただきながらお話ししてもらう予定です。 

コンセプチュアルで、コンテキストから成る他のファッションブランドを考える上でも、この講義が思考の契機、補助線になるだろうと思っています。



最後に、聞き手としてご登壇いただくキュレーターの飯岡陸さんからは、パグメントの作品は、何かを考えるその深度とラディカルさにおいて、かなり向こうまで、新しいところまで「行ける」ものであり、そのことは批評とともにであればなお一層立ち上がってくる、との旨をいただきました。講義という順序だった説明の後でこそ始まる問いがあれば、飯岡さんにはその問いを、講義の後半でPUGMENTに投げかけていただくことも予定しています。


 
運動着?精神的?スリリングな講義になりそうです。 


 
どうぞ、ご参集ください。



1 黒河内真衣子が手がけるmame kurogouchiはたしかブランドコンセプトを「現代社会における戦闘服」と表記していたと思うのですが、現在、HP等でそうした言葉は見受けられません。

また、ファッション誌『GINZA』(2015312日発売号)の付録として限定復刊した「おとなのオリーブ」では、歌手の小沢健二が、「軍服」がもしあからさまにかっこ悪かったのなら兵士の士気は下がり、争いは抑制されていたのではないか、というような記述をしていたと記憶しています(手元に無く未確認。誤認あればご一報ください)。





2017年10月7日土曜日

PUGMENT特別講義「精神的運動着論」




繊維研究会では新進気鋭のファッションレーベルPUGMENT(パグメント)の今福華凜/大谷将弘による特別講義を開催します。既存の枠組みに対してラディカルでありながら、常にどこか「ストリート」の匂いのする彼らのクリエイション。影響を受けてきたクリエーターやカルチャーを紹介しながら、これまでの活動、そして彼らが考えるファッションの可能性についてお話しいただきます。



【出演】PUGMENT(ファッションレーベル)、飯岡陸(キュレーター)、大和佳克(繊維研究会代表)

【日時】10月29日(日) 19:00〜 (開場は30分前)

【会場】早稲田大学戸山キャンパス学生会館W406,407
    東京都新宿区戸山1-24 早稲田駅より徒歩7分 


先着80名 (参加者多数の場合、立ち見でのご参加になります) 


予約不要 入場無料


お問い合わせ: sen.i.ymt@gmail.com








 【PUGMENT】
ファッションレーベル 

今福華凜と大谷将弘によって2014 年に設立。衣服が人間の営みにおいて価値や意味が変容していくプロセスを観察し、そのプロセスを衣服の制作工程に組み込む。あらゆるファッションにまつわるイメージが抵抗なく記号化し消費されてゆく昨今において、衣服を通したコミュニケーションの在り方を再考させ、都市や社会、そして他者との新たな関係の築き方を提案する。2017年6月に初となるコレクション「Spring 2018」を発表。 主な展覧会に「新しいルーブ・ゴールドバーグ・マシーン」KAYOKOYUKI,駒込倉庫, 東京,2016 /「鉄道芸術祭vol.5 ホンマタカシプロデュース もうひとつの電車 ~ alternative
train ~」アートエリアB1, 大阪,2015 /「THE EXPOSED#9 passing pictures」G/P+g3 gallery, 東京,2015 /など。

pugment.com


【飯岡陸】

1992年生まれ。東京芸術大学美術学部を経て、横浜国立大学大学院都市イノベーション学府修了。キュレーションを実践的な批評の在り方として捉え、展覧会の企画設計やトークイベントの企画、執筆活動などを行う。企画した主な展覧会に「渡邉庸平 : 猫の肌理、雲が裏返る光」(2017、駒込倉庫)「新しいルーブ・ゴールドバーグ・マシーン」(2016、KAYOKOYUKI 駒込倉庫)、「EXPOSED #9 passing pictures」(2015、G/P gallery shinonome) 、「回路を抜け出して(2015、印刷物)」など。